第二次世界大戦参戦時のイタリア海軍の編制 ―各地軍港の指揮官と所属艦隊、所属艦艇―
今回は、第二次世界大戦参戦時(1940年6月10日)時点のイタリア海軍の軍港と、どの艦隊が誰に指揮され、どこの軍港に配備され、どの艦が所属していたか...というのをざっくりした感じで紹介しようと思う。
1940年6月10日のイタリア参戦時、ローマの海軍参謀本部はドメニコ・カヴァニャーリ提督(Domenico Cavagnari)が率いていた。開戦時の海軍の艦艇は以下の通り。
◆戦艦
+「コンテ・ディ・カヴール」級戦艦2隻
+「リットーリオ」級戦艦2隻(未準備、戦闘不可能)
+水上機母艦「ジュゼッペ・ミラーリア」
◆巡洋艦
+「ザラ」級重巡洋艦4隻
+「サン・ジョルジョ」級対空巡洋艦1隻
+「アルベルト・ディ・ジュッサーノ」級軽巡洋艦4隻
+「ライモンド・モンテクッコリ」級軽巡洋艦2隻
+「エマヌエーレ・フィリベルト・ドゥーカ・ダオスタ」級軽巡洋艦2隻
+「ルイージ・ディ・サヴォイア・ドゥーカ・デッリ・アブルッツィ」級軽巡洋艦2隻
◆駆逐艦
+「レオーネ」級駆逐艦3隻
+「ナヴィガトーリ」級駆逐艦12隻
+「ソルダーティ」級駆逐艦12隻
+「ダルド」級駆逐艦4隻
+「カルロ・ミラベッロ」級駆逐艦2隻
+「フォルゴレ」級駆逐艦4隻
+「トゥルビネ」級駆逐艦8隻
+「ナザリオ・サウロ」級駆逐艦4隻
◆水雷艇
+「スピカ」級水雷艇30隻
+「オルサ」級水雷艇4隻
+「ロゾリーノ・ピーロ」級水雷艇7隻
+「ジュゼッペ・シルトリ」級水雷艇4隻
+「ジュゼッペ・ラ・マーサ」級水雷艇8隻
+「ジェネラーリ」級水雷艇6隻
+「パレストロ」級水雷艇4隻
+「インドミート」級水雷艇1隻
+水雷艇「アウダーチェ」
◆潜水艦
+「アドゥア」級潜水艦17隻
+「アルゴナウタ」級潜水艦7隻
+「ペルラ」級潜水艦10隻
+「シレーナ」級潜水艦12隻
+「アルキメーデ」級潜水艦2隻
+「アルゴ」級潜水艦2隻
+「バリッラ」級潜水艦4隻
+「バンディエーラ」級潜水艦4隻
+「ブラガディン」級潜水艦2隻
+「ブリン」級潜水艦5隻
+「カルヴィ」級潜水艦3隻
+「フィエラモスカ」級潜水艦1隻
+「フォカ」級潜水艦3隻
+「グラウコ」級潜水艦2隻
+「H(アッカ)」級潜水艦5隻
+「リウッツィ」級潜水艦4隻
+「マメーリ」級潜水艦4隻
+「マルチェッロ」級潜水艦11隻
+「マルコーニ」級潜水艦6隻
+「ミッカ」級潜水艦1隻
+「ピサーニ」潜水艦級4隻
+「セッテンブリーニ」級潜水艦2隻
+「スクァーロ」級潜水艦4隻
+「X」級潜水艦2隻
◆その他
機雷敷設艦、MAS艇(高速魚雷艇)、封鎖突破船、仮装巡洋艦、病院船等多数
ざっとこんな感じである。カヴァニャーリ提督の海軍計画通り、潜水艦隊は世界でも有数の戦力を誇ったが、主力艦隊は「リットーリオ」級2隻は竣工したものの戦闘準備が整っておらず未就役で、「カイオ・ドゥイリオ」級2隻も改装中であったため、「コンテ・ディ・カヴール」級2隻のみしか戦闘準備が整っていなかった。なお、空軍の方針により、イタリア海軍は空母を1隻も保有していない(航空機搭載艦は水上機母艦「ジュゼッペ・ミラーリア」と艦載機を搭載した軍艦のみ)。
開戦後、リットーリオ級戦艦「ローマ」や「カイオ・ドゥイリオ」級戦艦2隻、「カピターニ・ロマーニ」級軽巡洋艦、チクローネ級水雷艇、プラティーノ級潜水艦などを始めとする多くの艦艇がこれらに加勢する形で就役、戦力を増強している(しかし、工業生産力の不足故に、他列強に比べるとその数は少ない)。
◇軍港ごとの各艦隊の指揮官と所属艦艇
+主要な二つの軍港
◆ターラント(Taranto)
イタリア最大の軍港都市であり、主力艦隊である第一艦隊(I Squadra)の母港であるターラント。イタリア半島の南部にあるプーリア地方にある工業都市で、イタリア半島を「ブーツ」に例えると「土踏まず」のターラント湾に位置する。
□第一艦隊(イニーゴ・カンピオーニ提督)
旗艦:戦艦「ジュリオ・チェーザレ」
第一艦隊は戦艦を主力とする戦闘艦隊。第一艦隊は以下の5つの戦隊が所属する。
■第五戦艦戦隊(ブルート・ブリヴォネージ提督)
旗艦:戦艦「コンテ・ディ・カヴール」
所属艦艇:戦艦2隻 駆逐8隻
■第9戦艦戦隊(カルロ・ベルガミーニ提督)
旗艦:戦艦「リットーリオ」(未就役)
所属艦艇:戦艦2隻(未就役) 駆逐8隻
■第一巡洋戦隊(ペッレグリーノ・マッテウッチ提督)
旗艦:重巡「ザラ」
所属艦艇:重巡3隻 駆逐艦4隻
■第4巡洋戦隊(アルベルト・マレンコ提督)
旗艦:軽巡「アルベリーコ・ダ・バルビアーノ」
所属艦艇:軽巡4隻
■第8巡洋戦隊(アントニオ・レニャーニ提督)
旗艦:軽巡「ルイージ・ディ・サヴォイア・ドゥーカ・デッリ・アブルッツィ」
所属艦艇:軽巡2隻 駆逐艦4隻
■その他
所属艦艇:水上機母艦「ジュゼッペ・ミラーリア」等補助船6隻
イオニア海方面の防衛・哨戒等作戦行動を管轄する。
所属艦艇:軽巡2隻 潜水艦18隻 駆逐艦8隻 掃海艇10隻 砲艦2隻 機雷敷設艦2隻 補助船5隻
◆ラ・スペツィア(La Spezia)
北イタリアを代表する軍港都市。イタリア最大の港湾都市であるジェノヴァから東に行ったところにある。兵器生産を担う一大工業都市であり、休戦後もイタリア社会共和国(RSI政権)海軍の本部が置かれ、終戦まで軍港都市として機能した。また、イタリアご自慢の潜水艦隊の本部が置かれた。
□第二艦隊(リッカルド・パラディーニ提督)
旗艦:重巡「ポーラ」
所属艦艇:重巡1隻 駆逐4隻
第二艦隊は巡洋艦を中心とする戦闘艦隊。第二艦隊は以下の3つの戦隊が所属する。
■第三巡洋戦隊(カルロ・カッターネオ提督)
旗艦:重巡「トレント」
所属艦艇:重巡3隻 駆逐4隻
■第二巡洋戦隊(フェルディナンド・カサルディ提督)
旗艦:軽巡「ジョヴァンニ・デッレ・バンデ・ネーレ」
所属艦艇:軽巡2隻 駆逐4隻
■第七巡洋戦隊(ルイージ・サンソネッティ提督)
旗艦:軽巡「エウジェニオ・ディ・サヴォイア」
所属艦艇:軽巡4隻 駆逐4隻
■その他
所属艦艇:工作船「クァルナート」等補助船8隻
□上部ティレニア艦隊司令部
(アイモーネ・ディ・サヴォイア=アオスタ提督)
ティレニア海北部方面の防衛・哨戒等作戦行動を管轄する。
所属艦艇:水雷艇10隻 MAS艇20隻 砲艦1隻 補助船6隻
□潜水艦隊(マリオ・ファランゴーラ提督)
イタリア海軍に所属する全ての潜水艦部隊を管轄する。戦局が進むにつれて、潜水艦隊は地中海の他、大西洋、黒海、紅海、インド洋、更には太平洋でまで活動した。
※潜水艦隊はラ・スペツィアが総司令部だが、各地の軍港に展開している。
所属艦艇:潜水艦27隻(ラ・スペツィア港所属)
+西部地中海の軍港
◆ナポリ(Napoli)
南イタリア最大の都市で、「永遠の劇場」と謳われる地。ターラント空襲で大損害を被ったイタリア主力艦隊が後にこちらに母港を移すことになる。
□下部ティレニア艦隊司令部
(ヴラディミーロ・ピーニ提督)
ティレニア海南部方面の防衛・哨戒等作戦行動を管轄する。
所属艦艇:潜水艦8隻 水雷艇6隻 機雷敷設艦パルテノーペ等補助船5隻
◆ラ・マッダレーナ(La Maddalena)
サルデーニャ島北部沖合に浮かぶラ・マッダレーナ島の中心地。サルデーニャ王国軍がナポレオン軍の侵攻を打ち破った地でもあり、建国の英雄ガリバルディ最後の地としても知られる。仏領コルシカ島に睨みをきかせる場所として防衛拠点になっている。
(エットレ・スポルティエッロ提督)
サルデーニャ及び西部地中海、リグーリア海方面の防衛・哨戒等作戦行動を管轄する。
◆カリャリ(Cagliari)
サルデーニャ島の中心都市。サルデーニャ艦隊司令部の管轄に置かれる。
所属艦艇:潜水艦8隻
+アドリア海方面の軍港
◆ヴェネツィア Venezia
皆さんご存じ「水の都」。かつてはヴェネツィア共和国の首都であり、海洋共和国の中心として発展した港町。第一次世界大戦までは主要仮想敵国であるオーストリアに睨みを効かせる場所として軍港が重要視されたが、オーストリア帝国崩壊後はその重要度は下がることとなった。
□上部アドリア艦隊司令部(ジェノヴァ侯フェルディナンド・サヴォイア=ジェノヴァ提督)
アドリア海北部方面の防衛・哨戒等作戦行動を管轄する。
所属艦艇:水雷艇4隻 機雷敷設艦3隻 訓練艦2隻 砲艦1隻 工作船1隻
◆ポーラ(Pola)
イストリア半島に位置する軍港。第一次世界大戦まではオーストリア海軍の主要軍港だった。上部アドリア艦隊司令部の管轄に置かれている。アドリア海は完全にイタリア海軍の制海権にあるため、その安全性の高さから潜水艦の練習艦部隊の基地となる。
所属艦艇:水雷艇1隻 MAS艇4隻 補助船5隻
◆ブリンディジ(Brindisi)
イタリア半島の「かかと」に位置する港町。休戦後、南部に逃れたバドリオ政権が臨時首都を置いた場所としても知られている。また、ブリンディジ軍港は上陸作戦などを担当する海軍の海兵隊部隊、海兵連隊「サン・マルコ」の本部が置かれる。
アドリア海南部方面の防衛・哨戒等作戦行動を管轄する。
所属艦艇:駆逐艦6隻 MAS艇2隻 潜水艦7隻 補助船2隻
+中央地中海・東部地中海方面の軍港
◆メッシーナ(Messina)
シチリア北東部に位置する、メッシーナ海峡に臨む港町。シチリア海軍司令部の本部が置かれる。海峡を越えるとイタリア半島のカラブリア州。
□シチリア艦隊司令部(ピエトロ・バローネ提督)
シチリア・中央地中海方面の防衛・哨戒等作戦行動を管轄する。
所属艦艇:潜水艦7隻 水雷艇21隻 MAS艇16隻 掃海艇10隻 補助船8隻
◆パレルモ(Palermo)
所属艦艇:掃海艇9隻
◆アウグスタ(Augusta)
所属艦艇:潜水艦7隻 掃海艇9隻
◆トラーパニ(Trapani)
シチリア北西部の港町。シチリア海軍司令部の管轄に置かれる。
所属艦艇:潜水艦4隻 補助船3隻
◆ドゥラス(Durazzo)
アルバニア最大の港町であり、首都ティラナに次ぐアルバニア第二の都市。イタリアによる侵略前は王立アルバニア軍海軍部隊の母港であった。1939年にアルバニア王国がイタリア軍の侵略を受けたことで、イタリア海軍アルバニア艦隊の司令部が置かれることになった。形式上、アルバニアはイタリア王ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世が君主として君臨する同君連合となっているが、事実上の属国である。
アルバニア方面の防衛・哨戒等作戦行動を管轄する。参戦直後は小規模であるが、ギリシャ侵略以降で戦力が大幅に強化される。
所属艦艇:補助船3隻
◆ロードス(Rodi)
イタリアが伊土戦争でオスマン帝国から獲得したイタリア領エーゲ海諸島(所謂ドデカネス諸島)の中心地、ロードス島。東部地中海・エーゲ海の制海権維持のため、特にギリシャ侵攻を機に重視される。中東攻撃のために空軍基地も重要。
□エーゲ艦隊司令部(ルイージ・ビアンケーリ提督)
エーゲ海・東地中海方面の防衛・哨戒等作戦行動を管轄する。
所属艦艇:駆逐艦2隻 水雷艇4隻 MAS艇15隻 潜水艦8隻 砲艦3隻 機雷敷設艦2隻
◆ベンガジ(Bengasi)
北アフリカ・リビア植民地東部の中心都市。首都トリポリに次ぐリビア第二の都市である。リビア最大の軍港都市として発展する。行政区分的にはベンガジ県の県都。
□リビア艦隊司令部(ブルーノ・ブリヴォネージ提督)
リビア・中央地中海方面の防衛・哨戒等作戦行動を管轄する。なお、ブルーノ・ブリヴォネージ提督は第一艦隊に所属するブルート・ブリヴォネージ提督の兄。
所属艦艇:駆逐艦4隻 機雷敷設艦1隻 砲艦1隻
◆トブルク(Tobruch)
北アフリカ・リビア植民地東部の都市。リビア艦隊司令部の管轄に置かれる。エジプト国境に近いため、戦力が強化されている。
所属艦艇:巡洋艦1隻 駆逐艦4隻 潜水艦10隻 砲艦5隻 補助船3隻
+紅海・インド洋・太平洋方面の軍港
◆マッサワ(Massaua)
エリトリア第二の都市であり、エリトリア最大の軍港都市。開戦時点では、東アフリカ方面の唯一のイタリア海軍の大規模軍港都市である。紅海艦隊の母港であり、インドから紅海を抜けて地中海に向かう英国のシーレーンを脅かすという任務が課せられた。開戦後はスエズ運河を封鎖されている以上、戦力増強が不可能となる。
□紅海艦隊司令部(カルロ・バルサモ提督)
紅海・インド洋方面の作戦行動を管轄する。
所属艦艇:駆逐艦7隻 水雷艇2隻 MAS艇5隻 武装小型艇7隻 潜水艦8隻 仮装巡洋艦2隻 通報艦1隻 砲艦2隻 機雷敷設艦1隻 補助船10隻
◆天津(Tientsin)
中国の主要都市の一つであり、義和団事件へのイタリア軍の介入後、イタリアは天津に租界を保有している。小規模ながら、イタリア海軍唯一のアジア・太平洋方面に展開する極東艦隊の司令部が設置されている。戦局が進むにつれて、紅海艦隊の残存艦や遣日潜水艦作戦でやってきた潜水艦を吸収するなどして、最終的に機雷敷設艦1隻、砲艦1隻、通報艦1隻、仮装巡洋艦1隻、潜水艦3隻の計7隻まで戦力を増強した。
□極東艦隊司令部(ジョルジョ・ガッレッティ大佐)
アジア・太平洋方面の作戦行動を管轄する。
所属艦艇:機雷敷設艦1隻 砲艦1隻