イタリアの「駄作機」とエースたち:第二話 ―重戦闘機から急降下爆撃機への転身!Ro.57bisとクレスピ中尉―
さて、今回も前回に引き続き『「駄作機」とエース』シリーズを紹介して行こう。第二話は、IMAM Ro.57と「急降下爆撃機エース」のジャンピエロ・クレスピ(Giampiero Crespi)中尉についてのエピソードがテーマだ。
まず、ジャンピエロ・クレスピ中尉の簡単な紹介だが、第二次世界大戦時のイタリア空軍急降下爆撃機エースの一人で、フェルナンド・マルヴェッツィ(Fernando Malvezzi)大尉の部下として地中海における艦船攻撃で活躍し、軽巡「サウサンプトン」を始めとする多くの敵艦船を撃沈した事で知られている人物だ。隊長のマルヴェッツィは北アフリカでの事故をきっかけとして戦闘機部隊に転身するが、クレスピはその後も急降下爆撃機部隊に留まり、地中海戦線で活躍した。
おそらく、クレスピ中尉は『ストライクウィッチーズ』に登場するマルチナ・クレスピ(Martina Crespi)軍曹の元ネタとしてのほうが知られていそうだ。とはいえ、マルチナとは異なり、クレスピ中尉は戦闘機乗りに転身してはいない。今回は、そんなクレスピ中尉と、重戦闘機として作られたものの性能不足で急降下爆撃機として転身した「駄作機」IMAM Ro.57bisのエピソードを紹介しよう。なお、クレスピ中尉は割と「駄作機」に縁があるのか、大戦序盤ではかの有名な(?)ブレダ Ba.88"リンチェ"を駆ってコルシカ爆撃に参加していたりする(これについては次回若干紹介しよう)。
◆IMAM Ro.57bis急降下爆撃機
With ジャンピエロ・クレスピ
地中海戦線でマルヴェッツィ大尉やマッツェイ曹長(sergente maggiore Mazzei)と共にJu-87"ピッキアテッロ"急降下爆撃機による艦船攻撃で戦果を挙げていたクレスピだったが、1941年4月になると、隊長であるマルヴェッツィがトブルク攻撃時に英軍側に撃墜され、不時着。幸い軽症で済んだが、数日後の攻撃作戦を最後に治療のため帰国し、急降下爆撃機部隊から離れて戦闘機パイロットに転身した。
クレスピは急降下爆撃機部隊に留まったが、6月には彼も本国にて飛行教官を務めるためにイタリアに帰国することとなった。1942年1月には第209飛行隊に転属となり、5月から戦闘作戦を再開している。その後も飛行教官やテストパイロットを務めつつも、急降下爆撃機乗りとしての任務を続けた。そんな中、大戦も終盤になった1942年末に、クレスピは新型機「IMAM Ro.57bis」に転換したのであった。
◆IMAM Ro.57
―性能不足の重戦闘機、急降下爆撃機に転身―
IMAM Ro.57はナポリのIMAM社が開発・生産した双発機。設計者はモリーゼ州ポルトカンノーネ出身の技師、ジョヴァンニ・ガラッソ(Giovanni Galasso)。元々は双発重戦闘機として開発された機体で、試作機は1939年に初飛行している。しかし、試作機は武装が12.7mm機銃×2のみで貧弱だったために、戦闘機としては貧弱とされて急降下爆撃機として開発されることになった。
デザインはスタイリッシュで洗練された木金混合の機体だったが、水平尾翼には支えとして胴体からの支柱があるなど、古い設計な部分も目立った。当初、長距離戦闘機として開発されたものの、武装の貧弱さだけでなく、エンジンの非力さ故に速度も伸び悩んだ。その結果として、機体が非常に頑丈であり、運動性能も優れていたことから、それを買われ急降下爆撃機としての開発にシフトする結果となったのである。
だが、時のイタリア空軍参謀長フランチェスコ・プリーコロ(Francesco Pricolo)将軍は、イタリア企業の急降下爆撃機開発の遅れを見て、ドイツのユンカース社からJu-87を輸入することを決断。これによって、イタリア国内の急降下爆撃機開発はRo.57を含め中止となった(他社だとブレダ社のBa.201、カプロニ社のCa.355など)。
しかし、第二次世界大戦にイタリアが参戦すると、戦力の増強が急務となり、IMAM Ro.57は再度急降下爆撃機/戦闘爆撃機としての開発が再開された。こうして、開発されたのが改良型の"IMAM Ro.57bis"だ。bis型は更に既存の12.7mm機銃×2に加えて、20mm機関砲×2(ドイツ製MG151機関砲)を追加して武装を強化し、最大500kgの爆弾を搭載出来るように改造されたのである。だが、こうして開発された爆撃機型のRo.57bisであったが、急降下時に機体の安定性が悪いことが判明し、これは爆撃の制度に致命的な結果をもたらすことになった。
クレスピ中尉は1942年末にこのRo.57bisを受領した。試作機は1939年に飛行したRo.57であったが、部隊への配備には1942年末~1943年初頭にまでずれ込む結果となったのであった。生産数は75機程度である。爆撃制度が悪い、という致命的な「欠陥」を抱えながらも配備されるに至ったのは、機体が絶望的に足りていないという終盤のイタリア空軍の苦境が伺われる。実際、殆どのRo.57bisはこの終盤における戦いにおいて大した戦果を残さなかったと言われる。対照的に、レッジャーネ社のRe.2002"アリエテ"戦闘爆撃機部隊が終盤の戦いで多くの敵艦船を撃沈し、連合軍艦隊に大きな打撃を与えていたことを考えると、なんともやるせない。かの有名な急降下爆撃機エース、ジュゼッペ・チェンニ(Giuseppe Cenni)もRe.2002で多くの戦果を挙げた。
だが、クレスピも「愛機」のRo.57bisで、まずは末期の北アフリカ戦線に参加し、この機体での初陣を飾った。その後、クロトーネ基地を拠点にシチリア防衛戦に参加、シチリアに上陸する連合軍艦隊への攻撃を実行している。爆撃の精度は劣悪であったが、そこはクレスピの優れた操縦能力でそれを補正し、敵艦船に損害を与えたのであった。頑丈な機体故に敵艦からの対空砲火から身を守るには頼もしかった。そう考えると、この機体もBa.65と同様に「乗り手の操縦能力の高さで欠点をカバーできる機体」と言えよう(そもそも、余程の「欠陥機」じゃない限り基本的にそんな感じのが多いが)。しかし、戦局を変えるには当然力不足であり、地上撃破される機体も多かったのも現実であり、結局のところ一部を除き大した活躍も出来なかった「駄作機」と言えるだろう。
クレスピはRo.57bisでムッソリーニ統帥失脚間近の1943年7月1日まで敵拠点への急降下爆撃任務を続け、その後は空軍を退役してヴェルチェッリの小規模航空機メーカーであるAVIA社(チェコスロヴァキアのアヴィア社とは無関係)でテストパイロットになっている。休戦後はRSI空軍や共同交戦空軍には合流せず、終戦を迎えたのであった。
なお、IMAM社はRo.57の発展形として、エンジンをイタリアでライセンス生産されたダイムラー・ベンツ DB 601エンジンに交換した重戦闘機/戦闘爆撃機「IMAM Ro.58」を開発している。この設計も同様にジョヴァンニ・ガラッソ技師で、武装は12.7mm機銃×1、20mm機関砲×5と強化され、全金属製の頑丈な機体である。これはまさに、イタリアにおける双発戦闘爆撃機の完成形と言える。
テスト運用でも性能的にメッサーシュミット社のMe 410"ホルニッセ"重戦闘機よりも優れた結果を示したものの、時既に遅し。量産するには間に合わず、イタリアは休戦し、更にIMAM社はナポリであったことから早々に連合軍支配下に置かれたことで、この機体も日の目を見る事無く試作機段階で終了したのであった。Ro.58は「駄作機」Ro.57から生まれた、「隠れた傑作機」と言えるだろう。
さて、次回の『「駄作機」とエース』もお楽しみに!
次はBa.88とドッリオについて書こうと思っています。
第一話はこちら↓
第三話↓
第四話↓
第五話↓
■主要参考
・吉川和篤/山野治夫著『イタリア軍入門 1939~1945 ―第二次大戦を駆け抜けたローマ帝国の末裔たち―』イカロス出版・2006
・吉川和篤著『Viva!知られざるイタリア軍』イカロス出版・2012
・吉川和篤著『Benvenuti!知られざるイタリア将兵録【上巻】』イカロス出版・2018
・David Mondey著, The Hamlyn Concise Guide to Axis Aircraft of World War II, Book Sales, 2002
・Franco Pagliano著, Aviatori italiani 1940-1945, Mursia, 2004
・B.Palmiro Boschesi著, L'ITALIA NELLA II GUERRA MONDIALE, Mondadori, 1975
・Giovanni Massimello, Giorgio Apostolo著, Gli assi italiani della seconda guerra mondiale, LEG Edizioni, 2012
・Giuseppe Ciampaglia著, Destroyers. I distruttori nella seconda guerra mondiale, IBN, 1996
・Blu-ray&DVD『ストライクウィッチーズ2 第5巻 限定版』の封入特典小冊子:ストライクウィッチーズ 第五〇一統合戦闘航空団全記録弐 第五集
・Aeronautica Militare -IMAM Ro.57-
http://www.aeronautica.difesa.it/mezzi/mstorici/Pagine/IMAM-RO-57.aspx
・CORDOGLIO PER L’EROE DI GUERRA GIAMPIERO CRESPI (Legnano News)
http://www.legnanonews.com/news/1/32994/